日本ムーブメント教育・療法協会

協会について

ムーブメント教育·療法が目指すこと

 ムーブメント教育・療法(Movement Education and Therapy)は、子ども(対象者)の自主性、自発性を尊重し、子ども自身が遊具、場、音楽などの環境を活用しながら、動くことを学び、動きを通して「からだ(動くこと)」と「あたま(考えること)」と「こころ(感じること)」の行動全体に関わる調和のとれた発達を援助します。
 従来の単なる体育遊びや訓練的な身体運動ではなく、また、医学的療法を中心とした治療訓練でもありません。対象の子どもたちだけでなく、支援者や保護者も含めた誰もが歓びと充実感を実感できる「人間尊重の理念に基づいた教育・療法」であり、今日の特別支援教育、子ども・子育て支援、療育などの要請に応えられる実践法といえます。

 この教育・療法は、知覚運動学習の理論家であり、神経心理学者である米国のマリアンヌ・フロスティッグ博士(M,Frostig)が、1970年にムーブメント教育・療法の理論と実践の著書を公にし体系化を行ったものです。その中で、適切なムーブメント活動が「なぜ子どもに必要か」を明らかにし、それを教育・療法の基本として位置づけたところにその特徴があります。
 フロスティッグ博士は、ムーブメント教育・療法は全ての子どもに役立つが、とりわけLD児等学習に困難を持つ子ども、情緒行動面で問題を抱える子ども、協応運動を不得手とする子どもに利益をもたらすとしています。博士は、健康を支える感覚運動、心身の正常発達に必要な身体意識、視知覚教育、認知機能に繋がる創造的運動に着目し、そこに神経心理学的側面からの理論を構築しました。フロスティッグ法とも呼ばれるこの教育・療法は、身体機能だけでなく認知機能だけでもない全ての発達機能が関わる「第三の教育・療法」として世界各国で幅広く取り入れられ、近年では、特にインクルーシブ教育(保育)や家族参加型の療育(家族支援)としても活用されています。

 日本においては、1977年、横浜国立大学の小林芳文博士がフロスティッグ博士のムーブメント教育・療法の学問に触れ、研究同人と共にライフワークとして取り組まれ、我が国の風土に即した教育・療法として進展させ今日に至っています。
 現在、この教育・療法は、特定非営利活動法人日本ムーブメント教育・療法協会、国際ムーブメント教育・療法学術研究センター、大学等の教育研究者の協力のもと、発達支援や療育に必要な魅力あるムーブメントプログラムや支援アセスメント(MEPA-R、MEPA-ⅡR)が開発され多くの関連機関で活用されています。保育園・幼稚園(認定子ども園)の保育教育、特別支援学校などでの学習、障害児(者)施設での遊び活動、独立行政法人国立病院機構重症児者での療育やQOL支援、さらには福祉施設、地方自治体での子ども・子育て支援、家族支援プログラムとして広く応用されることを目指しています。

会長挨拶

健康と幸福、笑顔を支える暖かい風
~ムーブメント教育・療法~

小林芳文 博士

小林芳文 博士

 米国のM,Frostig博士により理論化・構造化されたムーブメント教育・療法が、日本に紹介されたのは1977年のことです。以来、私たちは、M,Frostig教授はもとより、ドイツのE,Kiphard教授(フランクフルト大学)、スイスのS,Naville教授(チューリッヒ治療教育研究所)、J,Winnick教授(ニューヨーク州立大学)、陳英三教授(台湾,国立台南大学)らの協力を仰ぎ、日本や海外の各地で数多くの研修等を開催し情報交換を行い、教育、保育、療育、福祉、医療など様々な分野で活用できる我が国独自のムーブメント教育・療法の花を咲かせることができました。
 私たちは、障害を有する皆さんこそ、QOLの充実や豊かな環境を取り込んだ循環支援が必要であると考え、ムーブメント教育・療法に注目してきました。核心を得た大きなきっかけは、WHO-ICF(2001)による「環境ー人間相互作用」という人間の生活機能に結びつけた障害観の転換でした。能力を個人内の現象に留めるのでなく環境との関係で捉えることの必要性が唱えられたことで、ムーブメント教育・療法がかねてから取り入れてきた遊具、音楽、人々など多様な環境の活用、誘因性のある場での楽しい遊びの要素を持った活動の重要性が認識されるようになったのです。
 幸いなことに、近年の脳科学や認知心理学研究の後押しもあり、「楽しい軽運動で心理的諸機能の発達が支えられること」も証明されるようになりました。生得的に持っている人の「動きたい」という行動特性を上手に活かしたこの教育・療法は、身体の全ての感覚モダリティーが関わる多様な活動ができるため、自然に環境を取り込み発達の好循環を生起することもできるのです。
 フロスティッグ博士は、ムーブメント教育・療法の究極的ねらいは、「健康と幸福感の達成にある」としています。全国の皆さんが、対象児者に寄り添えるムーブメント教育・療法に関心を向けていただき、発達のゆっくりな子ども、心身共に弱い子どもの発達や健康に向け療育に暖かい風を沢山送っていただけましたらと願っています。

 1991年に設立された日本ムーブメント教育協会(当時)は、ムーブメント教育・療法の普及に向け様々な講座やセミナーを開催しています。認定ムーブメント教育・療法の指導者資格(初級・中級・上級指導者)養成に取り組みながら、1998年には日本ムーブメント教育・療法協会(JAMET)と改名、2006年3月特定非営利活動法人を取得しました。
 当協会は、事務局長(社会福祉法人行道福祉会理事長 佐々木正寛先生)のもと、これまで、初代会長大島一良先生(秋津療育園園長、医学博士)、仁志田博司先生(東京女子医科大名誉教授、医学博士)、竹内文憲先生(社会福祉法人竹伸会理事長)の歴代会長、そして、高城義太郎先生(鎌倉女子大学名誉教授、医学博士)により支えられてきました。 この協会が、我が国のムーブメント教育・療法の拠点として発展して行くことを祈念しています。


2018年4月


特定非営利活動法人 日本ムーブメント教育・療法協会会長
国際ムーブメント教育・療法学術研究センター所長
横浜国立大学名誉教授・和光大学名誉教授 教育学博士
小林 芳文
※文中の先生方は、当時のご所属で記載させていただきました。